欠陥住宅

 欠陥住宅の訴訟では、業者側から「居住利益を損害額から控除すべきだ」という主張が出されることがよくありますが、最高裁の判例はありませんでした。

 しかし、平成22年6月17日上記論点に関して最高裁判決が出されました。

「売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合において、当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど、社会通念上、建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには、上記建物の買主がこれに居住していたという利益については、当該買主からの工事施工者等に対する建て替え費用相当額の損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできないと解するのが相当である。」

 

 上記判決には宮川光治裁判官の補足意見があります。

「建物の瑕疵は容易に発見できないことが多く、また瑕疵の内容を特定するには時間を要する。賠償を求めても売主等が争って応じない場合も多い。通常は、その間においても、買主は経済的理由等から安全性を欠いた建物であってもやむなく居住し続ける。そのような場合に、居住していることを利益と考え、あるいは売主等からの賠償金により建物を建て替えると耐用年数が伸長した新築建物を取得することになるとして、そのことを利益と考え、損益相殺ないし損益相殺的な調整を行うとすると、賠償が遅れれば遅れるほど賠償額は少なくなることになる。これは、誠意なき売主等を利するという事態を招き、公平ではない。重大な欠陥があり危険を伴う建物に居住することを法的利益と考えること及び建物には交換価値がないのに建て替えれば耐用年数が伸長するなどと考えることは、いずれも相当でないと思われる。」

 

 住宅の買主は、売主に欠陥住宅だと争っていても、金融機関に対してローンの返済を待ってもらえるわけではありません。危険な住宅だと分かっても、更に賃貸住宅を借りて賃料を支払うのは経済的に困難な場合が多いです。宮川光治裁判官の補足意見はもっともだと思います。

 

敷引特約

 平成23年3月24日、敷引特約についての最高裁判決が出されました。

 「賃貸借契約に敷引特約が付され、賃貸人が取得することになる金員(いわゆる敷引金)の額について契約書に明示されている場合には、賃借人は、賃料の額に加え、敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結するのであって、賃借人の負担については明確に合意されている。そして、通常損耗等の補修費用は、賃料にこれを含ませてその回収が図られているのが通常だとしても、これに充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には、その反面において、上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって、敷引特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担するということはできない。また、上記補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは、通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から、あながち不合理なものとはいえず、敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。

 もっとも、消費者契約である賃貸借契約においては、賃借人は、通常、自らが賃借する物件に生ずる通常損耗等の補修費用の額については十分な情報を有していない上、賃貸人との交渉によって敷引特約を排除することも困難であることからすると、敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には、賃貸人と賃借人との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景に、賃借人が一方的に不利益な負担を余儀なくされたものとみるべき場合が多いといえる。

 そうすると、消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。」

として、問題になった事案では、敷引金の額が経過年数に応じて賃料の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加え、更新時に1ヶ月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには、礼金等他の一時金を支払う義務を負っていないから、敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、消費者契約法10条により無効であるということはできないと判断しました。

 

 極めて消費者に厳しい判決になっています。

 

最高裁平成24年9月13日判決

 定期建物賃貸借契約においては、契約書とは別に説明の書面を要する旨の判決が出されました。

 「期間の定めがある建物の賃貸借につき契約の更新がないこととする旨の定めは、公正証書による等書面によって契約をする場合に限りすることができ(法38条1項)、そのような賃貸借をしようとするときは、賃貸人は、あらかじめ、賃借人に対し、当該賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならず(同条2項)、賃貸人が当該説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは無効となる(同条3項)。

 法38条1項の規定に加えて同条2項の規定が置かれた趣旨は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃借人になろうとする者に対し、定期建物賃貸借は契約の更新がなく期間の満了により終了することを理解させ、当該契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供することのみならず、説明においても更に書面の交付を要求することで契約の更新の有無に関する紛争の発生を未然に防止することにあるものと解される。

 以上のような法38条の規定の構造及び趣旨に照らすと、同条2項は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃貸人において、契約書とは別個に、定期建物賃貸借は更新がなく、期間の満了により終了することについて記載した書面を交付した上、その旨を説明すべきものとしたことが明らかである。そして、紛争の発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると、上記書面の交付を要するか否かについては、当該契約の締結に至る経緯、当該契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度といった個別具体的事情を考慮することなく、形式的、画一的に取り扱うのが相当である。」

 妥当な判決だと思われます。

最高裁平成28年12月1日判決

 法定地上権に関する最高裁判決が出されました。

「地上建物に仮差押えがされ、その後、当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続における売却により買受人がその所有権を取得した場合において、土地及び地上建物が当該仮差押えの時点で同一の所有者に属していたときは、その後に土地が第三者に譲渡された結果、当該強制競売手続における差押えの時点では土地及び地上建物が同一の所有者に属していなかったとしても、法定地上権が成立するというべきである。その理由は次のとおりである。

 民事執行法81条の法定地上権の制度は、土地及び地上建物が同一の所有者に属する場合には、土地の使用権を設定することが法律上不可能であるので、強制競売手続により土地と地上建物の所有者を異にするに至ったときに地上建物の所有者のために地上権が設定されたものとみなすことにより、地上建物の収去を余儀なくされることによる社会経済上の損失を防止しようとするものである。そして、地上建物の仮差押えの時点では土地の使用権を設定することができず、その後に土地が第三者に譲渡されたときにも地上建物につき土地の使用権が設定されるとは限らないのであって、この場合に当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続により買受人が取得した地上建物につき法定地上権を成立させるものとすることは、地上建物の収去による社会経済上の損失を防止しようとする民事執行法81条の趣旨に沿うものである。また、この場合に地上建物を仮差押えをした債権者は、地上建物の存続を前提に仮差押えをしたものであるから、地上建物につき法定地上権が成立しないとすれば、不測の損害を被ることとなり、相当ではないというべきである。」